Dusinberre, M & Aldrich, D.P. (2011). Hatoko comes home: Civil society and nuclear power in Japan. The Journal of Asian Studies, 70 (3), 638-705

被爆地である広島からそう離れていない山口県上関町がいかにして1980年代初頭に原子力発電所を誘致するに至ったかを検証した研究である。1974年4月、日本放送協会(NHK)は朝の連続ドラマ「鳩子の海」の放映を開始した。この連続ドラマは、広島で被爆した後に山口県上関町の住民の養子となった少女(平和のシンボルの鳩から「鳩子」と名付けられる)が成長する過程を描いている。本論文の著者マーティン・デュシンベール(ニューキャッスル大学講師)とダニエル・P・アルドリッチ(パデュー大学準教授)は、戦後日本の原子力政策と上関町の過疎化を中心とした社会経済的衰退を描きつつ、石油危機後の中央政府や中国電力、そして地域のエリートや地域住民たちがどのような理由をもって原発誘致に至ったかかを検証している。

本論文は1980年代初期の山口県上関町というケースを取り上げた研究である。しかし、著者らによると、本論文に描かれている上関町の原発誘致決定に至るプロセスには、福島を含めた他の地域の原発誘致にも当てはまる共通点が存在するという。著者らは、上関町の原発誘致に至るプロセスにおける「地域社会の運営のされ方」「地域住民による自分たちの生活する地域の経済が衰退することへの恐れ」「電力会社による地域住民の日常生活に対する介入」「中央政府から地域社会に与えられる補助金の誘惑」「原発の安全性に関する議論が回避される」という点にこれらの共通点を見出している(702頁)。

日本の原子力政策および福島原発事故の理解を地域社会の立場から深めるうえで有益な資料であると言える。高校で習う戦後史の知識を要するので、大学生以上の教材として適切だと思われる。

-Yasuhito Abe

[関連したアルドリッチの邦訳された本『Site Fights』はこちら。]

記事: Hatoko comes home: Civil society and nuclear power in Japan
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