Lakoff, Andrew, ed. 2010. Disaster and the Politics of Intervention. New York: Columbia
University Press. アンドリュー・レイコフ編(2010)『災害と介入における政
治』コロンビア大学出版.

本書は「大災害に至るリスクを軽減するために公共機関によって行われる介入の役割」(1頁~2頁)について様々な観点から論じている専門書である。本書は編者のアンドリュー・レイコフ(南カリフォルニア大学准教授)による序文に加えて以下の論文によって構成されている。

Chapter 1: “Beyond Calculation: A Democratic Response to Risk,” by Sheila Jasanoff.
Chapter 2: “Private Choices, Public Harms: The Evolution of National Disaster Organizations in the United States,” by Patrick S. Roberts.
Chapter 3: “Strange Brew: Private Military Contractors and Humanitarians,” by P.W. Singer.
Chapter 4: “Risking Health: HIV/AIDS and the Problem of Access to Essential Medicines,” by Heinz Klug.
Chapter 5: “Constructing Carbon Markets: Learning from Experiments in the Technopolitics of Emissions Trading Schemes,” by Donald Mackenzie.

レイコフによる序文では、本書の内容と目的が簡潔にまとめられている。本書で論じられるトピックは多岐にわたるものの、レイコフによると2000年代以降の大災害に対する政治介入のあり方には3つの共通点が存在するという(3頁)。

1 「緊急」事態の発生によってはじめて政府による対応が可能になったこと(事前に予防措置を講じようとしても政治的理解が得られなかった)。
2 政府が災害に対する十分な対策を出来なかったとされたため政治的危機に陥ったこと。
3 緊急事態に対する適切な対処方法や対処を行う際の責任のありかをめぐって専門家の間に激しい意見の相違が生じたこと。

本書は、311に対する日本政府の介入のあり方を、過去の大災害における政府介入のあり方と照らし合わせて理解するうえで極めて有益な資料であると言える。

本書に掲載された論文の中でとくに311の参考になるものとして、シーラ・ジャザノフ(ハーバード大学教授)による「推定を超えて:リスクに対する民主的応答」(14頁~40頁)が挙げられる。ジャザノフによれば、現代の災害リスクは、専門家が推定できる範囲をはるかに超えて、民主政治そのものの問題となった。このため、災害に対する政府介入のあり方として、災害のリスクを識別してそのリスクを管理することを主要な目標とする専門家によるトップダウン形式の「リスク管理(Risk management)」から、被災した市民の経験から学びつつ、被災者が置かれた社会政治的環境を考慮にいれながら、災害からの復元力の構築を目指す「リスク統治 (Risk governance)」への転換が必要だという。つまり、今後の災害対策には災害の原因よりも災害が起きた文脈に比重を置いた分析が求められるということである(36頁)。ジェイサノフは、専門家の推定には限界があると自覚しながら過去の歴史や市民個々人の経験から学ぼうとする「謙遜の技術(technologies of humility)」こそが、今後の災害対策を考慮するうえで重要だと主張している。

本書はさまざまなトピックを取り扱っているものの、各章ではそれぞれのトピックについて丁寧に説明されている。大学生の教材として適切であろう。

– Yasuhito Abe

BOOK: Disaster and the Politics of Intervention 『災害と介入における政 治』
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